協働ロボット
きょうどうろぼっと
協働ロボット(コボット/cobot/collaborative robot)とは、安全柵を設置せずに人間と同じ作業空間で一緒に作業できる産業用ロボットのことです。ISO 10218(JIS B8433)において「定義した作業空間内で人間と直接協働して作業することが可能なロボット」と定義されており、「人協働ロボット」とも呼ばれます。協働作業中の接触力・速度の許容値など具体的な安全指針については、技術仕様書「ISO/TS 15066」に詳しく規定されています。
従来の産業用ロボットは高速・高出力を優先するため、作業者の安全確保に安全柵による隔離が必須でした。これに対し協働ロボットは、力覚センサーや衝突検知機能、速度・トルク制限などにより、人との接触時に自動停止する安全機能を標準で備えています。
人手不足が深刻な製造・物流・食品・医療など幅広い分野で導入が加速しており、国際ロボット連盟(IFR)の「World Robotics 2025」によると、協働ロボットの年間設置台数は前年比12%増と二桁成長を続けています。
協働ロボットの仕組みと安全機能
協働ロボットが人と安全に共存できる背景には、複数の安全技術の組み合わせがあります。主な安全機能の例として下記が挙げられます。
- 力覚センサー・トルク制限:
- 各関節に力覚センサーを内蔵し、一定以上の力が加わると即座に停止します。
- 衝突検知機能:
- 人や物体への接触を検知して自動停止する機能で、安全柵なしでの運用を可能にします。
- 動作モードの自動切替:
- 人がいない環境では産業用ロボットに近い速度で高速稼働し、人の接近を感知すると自動的に低速の協働モードへ切り替わります。生産性と安全性を両立できます。
- 速度制限:
- 協働モード時は動作速度を一定以下に抑え、接触時の衝撃を最小化します。
- 挟み込み防止設計:
- アーム同士やアームと本体の間に意図的に隙間を確保した形状設計により、手や指の挟み込みを物理的に防ぎます。挟み込みを検知した場合は自動的に離れる方向へ動く機能を備えた機種もあります。
- ダイレクトティーチング:
- 作業者がアームを直接手で動かして動作を教えることができ、専門的なプログラミング知識が不要です。
これらの安全機能は、2013年の労働安全衛生規則改正による規制緩和(安全柵なしでの協働作業の解禁)を背景に普及が加速しました。ただし、ロボット本体が安全でもエンドエフェクター(ロボットの手先に取り付ける作業用工具)やワーク(加工物)の形状・重量によっては危険が生じる場合があるため、導入前には「リスクアセスメント」の実施が法的に義務付けられています。
協働ロボットの主な用途と導入が進む現場
協働ロボットの用途は多岐にわたります。特に以下の作業での活用が進んでいます。
- 組み立て・ねじ締め:
- 人と協働しながら部品を組み付ける作業。精密さが求められる電子機器や自動車部品の組み立てに適しています。
- ピックアンドプレース・ピッキング:
- 部品や製品の取り出し・移載作業。多品種少量生産の現場で柔軟に対応できます。
- マシンテンディング:
- 工作機械へのワーク投入・排出の自動化。
- 搬送・パレタイズ:
- 部品の運搬、製品の積み重ね・整列作業。
- 検査・品質管理:
- カメラやセンサーを用いた外観検査・寸法計測の自動化。
少子高齢化による労働人口の減少を背景に、製造業では人材確保が年々困難になっています。協働ロボットは「人と同じ空間で働ける」という特性から、既存ラインの空きスペースに設置できるケースも多く、大規模な設備投資なしに自動化を実現できる点が中小企業にも支持されています。
協働ロボットと従来の産業用ロボットの比較
以下は協働ロボットと従来の産業用ロボットそれぞれの特徴の比較表です。
| 比較項目 | 協働ロボット(コボット) | 従来の産業用ロボット |
|---|---|---|
| 安全対策 | 人との接触を検知して動作を停止・制限する安全機能を備えた設計が一般的で、条件によっては安全柵なしでの運用が可能 | 高速・高出力で動作するため、安全柵による人との隔離を前提とした運用が一般的 |
| 動作速度 | 安全性を考慮し、動作速度が制限されるケースが多い | 高速動作により生産性を重視した運用が可能 |
| 導入コスト | 本体価格は比較的抑えられる傾向があり、用途によっては既存設備を活かした導入が可能 | ロボット本体に加え、安全柵や周辺設備を含めた設備投資が必要となる場合が多い |
| 操作難易度 | ダイレクトティーチングなどにより、専門知識を抑えた操作が可能な機種が多い | プログラミングや調整に専門的な知識・経験が求められる場合が多い |
| 得意な生産形態 | 多品種少量生産や生産内容の変更が多い工程に適する | 同一製品を大量かつ高速に生産する工程に適する |
| 設置スペース | 省スペースで設置でき、レイアウト変更や移設に対応しやすい | 一定の設置面積と固定レイアウトを必要とする場合が多い |
協働ロボットは安全性・柔軟性・導入しやすさに優れる一方、動作速度の遅さや可搬重量の小ささという制約があります。大量生産・重量物・高速作業が求められる工程では従来の産業用ロボットが依然として有利です。用途と生産形態に応じた使い分けが重要です。
協働ロボット導入における課題
メリットが多い協働ロボットですが、導入にあたって以下の課題・デメリットにも注意が必要です。
- 動作速度の制限:
- 安全確保のため動作速度が遅く、タクトタイムの短縮には限界があります。高速・大量生産ラインには向きません。
- 可搬重量の制約:
- 多くの機種の可搬重量は20kg以下で、重量物の扱いには不向きです。
- 精度の課題:
- 安全性を優先した設計上、関節の剛性や位置繰り返し精度が従来の産業用ロボットに比べて劣る傾向があります。ロボット自体のたわみや熱変形による位置誤差が、精密作業の妨げになる場合があります。
- リスクアセスメントの必要性:
- 安全柵は不要でも、ツールやワークを含めた安全確認(リスクアセスメント)の実施は義務付けられています。
- コスト:
- 本体価格100〜600万円に加え、システムインテグレーション費用や運用コストも必要です。
中でも「精度の課題」は、精密な組み立てや外観検査を協働ロボットで行う場合に大きな障壁となります。ロボット自体の剛性不足に加え、稼働中に生じる微小な位置ずれが作業品質に影響するためです。
協働ロボットの精度課題の解決事例
主に協働ロボットの精度不足を補う方法として、近年注目されているのが「マシンビジョン(機械視覚)」との組み合わせです。ロボットに視覚センサーを搭載することで、カメラが実際の位置・姿勢情報をリアルタイムに取得し、ロボットの位置誤差を視覚的に補正するアプローチです。
例として、以下のようなアプローチが挙げられます。
- ビジョントラッキング:
- 高速カメラでワークや周囲の状況をリアルタイムに認識し、ロボットの動作を逐次補正します。コンベア上の移動するワークへの追従も可能です。
- 3Dカメラによるばら積みピッキング支援:
- 3Dカメラで積み重なったワークの位置・姿勢を三次元的に把握し、ロボットが干渉を回避しながら最適な経路でピッキングできるよう誘導します。
- ローカライザーによる絶対位置補正:
- 外部の高精度位置測定装置(ローカライザー)でロボット自身の位置を計測・補正することで、ロボット本体のたわみや熱変形による誤差を解消します。
ニコンの解決アプローチ事例
協働ロボットは安全性を重視した設計が採られていることから、使用条件や工程内容によっては、剛性や位置精度の面で従来型の産業用ロボットと比べて制約が生じる場合があります。ニコンでは、こうした特性を踏まえ、高速な画像取得技術や高分解能の位置計測技術を活用し、視覚情報に基づいてロボット動作を補正するアプローチを提供しています。
ニコンのロボットビジョンシステムは、2D/3Dカメラを組み合わせた構成を採用しています。ワークの位置や姿勢を画像から把握し、その情報を基にロボットの動作補正を行うことで、協働ロボットを用いたピックアンドプレースや外観検査など、一定の位置精度が求められる工程への適用を支援します。これにより、人とロボットが同一空間で作業する環境においても、安定した運用を検討することが可能になります。
また、高分解能の位置計測技術は、ロボットや設備の位置変動を把握するための手段として活用されており、ロボット本体のたわみや温度変化などに起因する位置ずれの影響を評価・補正することを目的としています。複数の対象や座標系を一元的に管理できる構成とすることで、精密加工や計測など、位置精度への配慮が求められる工程における協働ロボット活用を支援します。
これらのシステムは、特定のロボットメーカーに依存しない構成を前提として設計されており、既存設備や異なるロボットシステムとの組み合わせを考慮した導入検討にも対応可能です。
よくある質問
Q1. 協働ロボットと産業用ロボットは何が違いますか?
最大の違いは「安全柵なしで人と同じ空間で使えるかどうか」です。協働ロボットは力覚センサーや衝突検知機能によって人への接触時に自動停止し、安全柵が不要です。一方、従来の産業用ロボットは高速・高出力を重視するため、安全柵による隔離が必須です。多品種少量生産や省スペース導入を優先する場合は協働ロボット、大量生産・高速作業・重量物には従来型が適しています。
Q2. 協働ロボットのデメリット・弱点は何ですか?
主なデメリットは①動作速度が遅い、②可搬重量が小さい(多くは20kg以下)、③本体の剛性・位置精度が産業用ロボットより劣る傾向がある、の3点です。精密作業を行う場合は、マシンビジョンやローカライザーによる位置補正技術と組み合わせることで、精度不足を補う方法が取られています。
Q3. 協働ロボットを導入する際にリスクアセスメントは必要ですか?
はい、必要です。協働ロボット本体が安全設計であっても、取り付けるツール(先端工具)やワーク(加工物)の形状・重量・動作パターンによっては危険が生じる場合があります。労働安全衛生規則に基づき、協働ロボットを使用する場合はシステム全体のリスクアセスメントの実施が義務付けられています。
参考文献
IFR(国際ロボット連盟). 「World Robotics 2025 – Press Conference Presentation」. IFR. 2025-09-25.
ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会. 「協働ロボットの安全解説書~ロボットを使用した協働作業の実現に向けて~」. 2023-03.