株式会社ニコン デジタルマニュファクチャリング事業
Japan

マシンビジョン

ましんびじょん
マシンビジョン(Machine Vision)とは、産業用カメラや画像処理アルゴリズムを用いて機械に「視覚」を与え、自動で認識・判断・制御を行う技術及びシステムの総称です。広義には、関連するソフトウェア、ハードウェア、システム構成、運用ノウハウまでを含み、計算機科学・機械工学・光学・ファクトリーオートメーションを横断する工学分野の一つです。
主に工場の生産ラインにおいて、人間の目の代わりとして外観検査・位置決め・計測・識別などの工程で活用されています。マシンビジョンは単に「カメラで撮影し、AIで判定する」技術ではなく、照明・レンズ・センサー・通信・制御ロジックを含めて一体として設計されるシステムインテグレーション技術です。各要素を現場環境に合わせて最適化することで、安定した運用が可能となります。半導体、食品、自動車など、高い精度と再現性が求められる製造業分野を中心に幅広く導入されています。

マシンビジョンの仕組みとプロセス

マシンビジョンは、主に以下の3つのステップで処理を行います。
画像の取得:
産業用カメラと専用照明を組み合わせ、高精度なデジタル画像を取得します。適切な照明技術は、対象物の特徴を際立たせ安定した撮影を実現するうえで特に重要です。
画像の処理(分析):
ソフトウェアが特徴抽出、エッジ検出、文字認識(OCR:光学文字認識)などを行い、自動的に情報を判別します。近年はAI(ディープラーニング)の活用も進んでいます。
判断と出力:
検査結果に基づき、合格品・不合格品の分類や、ロボットアームへの位置情報の送信などの動作を実行します。結果はPLC(プログラマブルロジックコントローラー)などの制御装置へ伝達されます。
マシンビジョンシステムを構成する主な要素は次の5つです。特に照明とカメラの設計は全体の品質を左右する重要な要素です。
照明:
対象物の特徴を際立たせ、安定した画像撮影に不可欠。
レンズ:
視野と解像度を決定し、歪みのない鮮明な像をセンサーに届ける。
マシンビジョンカメラ(産業用カメラ):
高速・高精細な画像を取得。エリアセンサカメラとラインセンサカメラの2種類が主流。
画像処理ソフトウェア:
取得した画像から特徴を抽出し、良否判定や計測などの演算を実施。
通信・制御インタフェース:
判定結果をロボットやPLCに伝え、NG品の排出やロボットの動作制御を担う。カメラとコントローラー間の通信には、GigE Vision・USB3 Vision・CoaXPressといった業界標準規格が広く用いられ、上位システムとの接続にはEtherCATやPROFINETなどの産業用通信プロトコルが使われることも多い。
マシンビジョンとよく混同されるのが、コンピュータビジョン(Computer Vision、CV)です。コンピュータビジョンが画像認識アルゴリズムの研究・開発を中心とした学術・研究分野であるのに対し、マシンビジョンは決まった時間内に必ず処理を完了させるリアルタイム性(例:コンベアの速度に合わせて、0.1秒以内に必ず合否を判定し、ロボットへ指示を送る、といった確実な動作)を重視し、デジタル入出力機器や制御ネットワークも含めた製造現場向けの統合システムを指します。つまり、単なる画像解析にとどまらず、デジタル入出力や制御ネットワークと連動し、「確実に・速く・止まらずに動く」という産業用途に特化した厳しい要求こそが、マシンビジョンの核心といえます。

マシンビジョンの主な種類と分類

マシンビジョンは処理方式やセンサー構成によってさまざまに分類されます。

マシンビジョンの主要な分類と比較

分類方式 特徴・計測原理 主な用途・得意なシーン
2Dマシンビジョン 平面的な画像(縦・横)を取得・解析する、最も普及している方式。 外観検査、バーコード・文字読み取り、簡易計測
3Dマシンビジョン 3Dカメラやステレオ方式等で、立体形状や奥行き(深度)を取得。 ばら積みピッキング、複雑な形状計測、段差測定
ラインスキャン方式 ラインセンサで1列ずつ走査。連続的な画像を取得する。 フィルム、シート、基板など高速移動する製品の検査
エリアスキャン方式 エリアセンサで面として撮影。最も一般的な撮影方式。 静止・低速な対象物の検査、一般的な寸法計測
また、カメラの設置形態によっても分類されます。ロボットアームの先端に取り付けるハンドアイ型(ハンドビジョン)は、複数の角度からワークを認識できるため死角が少なく、柔軟な対応が可能です。一方、固定設置型は構成がシンプルで安定した検査環境を実現します。
また、ルールベース処理とAI(ディープラーニング)は用途に応じて使い分けられます。寸法計測や位置決めなど答えが一意に定まる処理にはルールベースが適しており、微細なキズや形状ばらつきなど曖昧さを含む判定にはAIが有効とされています。

マシンビジョンが必要な場面と主な用途・自動検査への活用

マシンビジョンシステムは、製造業を中心に以下の場面で広く活用されています。
外観検査・欠陥検出(自動検査):
部品のキズ、汚れ、欠け、異物混入などを自動で判定。人間の目では追いきれない高速な生産ラインでも、1分間に数百〜数千個の検査が可能です。
寸法計測:
製品の長さ・幅・角度などをミクロン単位の精度で非接触測定。この高精度を実現する技術的な鍵がサブピクセル解析です。カメラの1画素(ピクセル)以下の精度で輝度変化を解析することで、画素の物理的な限界を超えた高精度計測が可能になります。また、撮影環境のばらつきを補正するキャリブレーション技術との組み合わせにより、食品や液晶ガラス・半導体製品など手で触れてはならない製品の検査でも安定した計測精度を維持できます。
位置決め・ロボットガイド:
ロボットが部品を正確に把持できるよう、座標データを提供(ビジョントラッキング・ばら積みピッキング等)。
識別・コード読み取り:
バーコード、QRコード、シリアル番号、製造年月日などをOCRで読み取り、製品の追跡管理(トレーサビリティ)を実現します。
電子部品・半導体・自動車・食品・医薬品など、精度要求の高い分野で広く採用されています。
マシンビジョンの導入により期待できる主なメリットは次の3つです。
品質の安定化:
人による見逃しや判断基準のバラつきを排除し、全数検査が可能になります。
生産性の向上:
疲労による判断のバラつきがなく、高速ラインにも対応できます。
コスト削減:
検査工程の自動化による人件費削減や廃棄ロスの低減につながります。

マシンビジョン導入における主な課題

マシンビジョンシステムの導入は多くのメリットをもたらす一方、現場では以下のような課題が生じやすい点も理解しておく必要があります。
見えにくい対象への対応:
反射する金属部品、暗所での撮影、透明・半透明の素材など、従来のFAカメラ(産業用カメラ)では安定した画像取得が難しいケースがあります。照明設計の工夫やカメラ性能の選定が重要です。
高速ラインへの追従:
移動中のワークに対してリアルタイムで位置補正を行うには、高いフレームレート(fps)と処理速度が求められます。処理スピードが要求にマッチしないと、手作業への依存が残ってしまいます。
複雑形状・ランダム配置への対応:
ばら積み状態の部品や、複数種が混在するワークの認識には、従来の2D処理のみでは精度が不足するケースがあります。3Dビジョンやハイブリッドアルゴリズムの活用が有効です。
設備設計・セットアップの複雑さ:
外部カメラの固定架台(櫓)や搬送機器との同期設定が必要なケースでは、稼働開始までのリードタイムが長くなりがちです。また、工程変更時の再設定コストも課題となります。
これらの課題を解決するためには、単にカメラを置くだけでなく、照明・レンズ・アルゴリズム・制御ロジックを一体として設計することが重要です。特に光学性能と画像処理アルゴリズムの組み合わせが、認識精度と安定性を大きく左右します。

マシンビジョンの解決事例

上述の課題に対するアプローチのひとつとして、ニコンのロボットビジョンシステムがあります。
ニコン製品ならではの強みは、光学メーカーとしての設計思想にあります。反射する金属部品や暗所など、従来の産業用カメラでは安定撮影が難しい対象でも、鮮明な画像取得を実現します。また、2DカメラとLED照明による高速認識、および2つの3Dステレオカメラとプロジェクタによる深度情報を含む点群データ生成の双方に対応した2D/3Dハイブリッドアルゴリズムを採用しており、複雑な形状やランダム配置にも対応したロバストな認識を実現しています。
ロボットアームへのハンドアイ取り付けに対応しているため、コンベア上を流れる移動中のワークへの追従(ビジョントラッキング)や、ばら積みピッキングへの適用が可能です。搬送機器との同期設定や専用架台が不要で、既存設備を活かしたまま導入できる点も特徴のひとつです。

一般的な他社マシンビジョン製品とニコン製品の性能比較

性能項目 一般的なマシンビジョンシステムの一例 ニコン ロボットビジョンシステム ニコンの特長(設計思想)
処理性能 用途や構成に応じた処理性能 高速処理を想定したシステム構成に対応 高速ラインや移動中ワークへの適用を想定した設計が可能
認識精度 撮影条件により安定性が左右される場合がある 厳しい撮影条件を考慮した構成が可能 光学技術を基盤とした設計により、反射物・暗所環境への対応を支援
認識方式 2Dまたは3Dの単一方式が主流 2D/3D情報を組み合わせた認識方式に対応 複雑形状やランダム配置ワークへの柔軟な対応を想定
※性能・適用範囲は、システム構成、撮影条件、対象物により異なります。
詳しくは、ニコンのロボットビジョンシステム製品ページをご参照ください。
https://ngpd.nikon.com/robot-vision-system/

マシンビジョンの最新動向

マシンビジョン市場は、製造業の自動化・省人化ニーズの高まりとともに急速に拡大しています。世界市場は2025年に約125億米ドルと評価され、2034年までに約269億米ドル(CAGR約8.9%)に達すると予測されています。日本市場も2024年に約15.9億米ドルに達し、2033年までに約34.6億米ドル(CAGR約9.2%)への成長が見込まれています。
主に下記の動向が業界全体として注目されています。
AIとの融合加速:
ディープラーニングを活用した外観検査や物体認識の普及が進んでいます。ディープラーニング市場は2025年に約342億米ドルで、2034年までに3423億米ドル超(CAGR27.83%)に達するとも予測されています。
3Dマシンビジョンの普及:
世界の3Dビジョン市場は2025年に約43億米ドルで、2034年までに約106億米ドル(CAGR約10.9%)への成長が予測されます。ばら積みピッキングや複雑形状の計測ニーズの増加を背景に、2D/3Dハイブリッドシステムの採用も拡大しています。

よくある質問

Q1. マシンビジョンとは何ですか?コンピュータビジョンとの違いは?
マシンビジョン(Machine Vision)とは、産業用カメラ・照明・コンピュータを組み合わせて機械に「視覚」を与え、製造現場での自動検査・計測・ロボットのガイドなどを行う技術・システムの総称です。コンピュータビジョン(CV)が画像認識アルゴリズムの研究・開発を中心とした学術分野であるのに対し、マシンビジョンは決まった時間内に必ず処理を完了させるリアルタイム性(決定論的動作)と、デジタル入出力・制御ネットワークを含む製造現場への統合を重視する点が異なります。
Q2. マシンビジョンとAI(ディープラーニング)はどう違いますか?
マシンビジョンはシステム全体の総称であり、AIはその中で使われる処理技術のひとつです。従来のルールベース処理(パターンマッチング・エッジ検出等)は、寸法計測・位置決め・バーコード読み取りなど「答えが一意に定まる処理」が得意です。一方、AI(ディープラーニング)は、微細なキズや形状のばらつき、複数ワークの混在など「曖昧さのある欠陥検出・識別」が得意です。近年はルールベースとAIを組み合わせたハイブリッドシステムが現場での主流になりつつあります。
Q3. ロボットビジョンとマシンビジョンの違いは何ですか?
マシンビジョンは製造現場における画像処理を用いた検査・計測・識別技術の総称であり、固定設置型のシステムも含む広い概念です。一方、ロボットビジョンはロボットアームなどの産業用ロボットに取り付けるビジョンシステムを特に指します。ロボットビジョンがあることで、ロボットは形状や空間を認識して柔軟・複雑な動作が可能になります。両者は技術的には重なる部分が多く、ロボットビジョンはマシンビジョンの応用形態のひとつとも言えます。
Q4. マシンビジョンはどのような分野で用いられますか?
主に製造業全般で活用されており、特に電子部品・半導体、自動車、食品、医薬品など精度要求の高い分野での導入が進んでいます。外観検査・寸法計測・ロボットガイド・コード読み取りなどの用途があり、接触式センサーが使えない無菌室や精密部品の検査にも適しています。近年は物流・農業・医療などの非製造分野への展開も広がっています。
Q5. マシンビジョンシステムの導入を検討する際に最初に確認すべき点は何ですか?
まず「何を、どのくらいの速度で、どの精度で検査・計測・識別したいか」を明確にすることが重要です。その上で、①対象物の形状・素材・反射特性、②生産ライン速度(必要なfps)、③2D・3Dどちらが必要か、④既存設備との連携要件(通信規格・制御プロトコル含む)、の4点を整理すると、適切なシステム選定につながります。

参考文献

Fortune Business Insights. 「3D Machine Vision Market Size, Share & Industry Analysis」. Fortune Business Insights. 2026-02-16.
Fortune Business Insights. 「Machine Vision Market Size, Share & Industry Analysis」. Fortune Business Insights. 2026-02-16.
Market Growth Reports. 「マシンビジョンにおけるディープラーニングの市場規模」. Market Growth Reports. 2026-02-16.
IMARC Group. 「日本のマシンビジョン市場 2025-2033」. イプロスものづくり.
JIIA 一般社団法人 日本インダストリアルイメージング協会. 「GigE Vision」. JIIA.
https://jiia.org/mv_dl/gigevision/ (参照 2026-03-05)
JIIA 一般社団法人 日本インダストリアルイメージング協会. 「USB3 Vision」. JIIA.
https://jiia.org/mv_dl/usb3-vision/ (参照 2026-03-05)
JAI. 「マシンビジョン インターフェースの概要」. JAI. 2024-02-29.

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