
リブレットとは?
リブレットとは、生物模倣技術(バイオミメティクス)の一種であり、サメの肌をモチーフにした人工的な構造のことです。その形状は写真のように連続した縦溝から成る微細構造です。

リブレット加工の断面観察結果(SEM像)
リブレットによる表面摩擦抵抗低減のメカニズム
リブレットの物理現象そのものは学術的に広く知られています。流体における抵抗は圧力抵抗(慣性抵抗)と摩擦抵抗(粘性抵抗)の2つに大別されますが、リブレットは摩擦抵抗に対して効果を発揮します。乱流と呼ばれる領域においては壁面境界層に強いヘアピン渦が発生し、それに伴う壁面近傍の連続的な縦渦の発生によって摩擦抵抗が生じることが分かっています。リブレットは、縦溝があることによって、渦と壁面との距離が作られることに加え、接触面積が少なくなることで渦による抵抗を和らげ、接触摩擦抵抗を低減します。


リブレットによる摩擦抵抗低減のメカニズム(模式図)
ニコンのリブレットのオリジナリティ
リブレットは、壁面の条件によって、効果が発現する縦溝の寸法が変わります。つまり、効果を最大化するには、リブレットを付与する箇所毎の流体の状況(流速・密度・粘性・流れの向き等)に即した、縦溝構造の大きさおよび向きのデザインが求められることとなります。こうした”部位毎に最適なリブレット形状”のデザインは、近年のCFD解析技術の発展と共に徐々に可能となってきており、ニコンは、その中でもいち早くリブレットの解析を専門として研究を行ってきたbionic surface technologies社と手を組むことで、より効果的なリブレットのデザインを行うことを可能にしています。


最適デザインの設計および効果予測解析から実加工までトータルで提供
ニコン製リブレットが持ち込んだ、3つの自由度
上述したようにリブレットは部位毎に最適な形状・寸法が求められます。解析によって、デザインが導出されると、今度はその実装が求められることとなります。従来は金型による樹脂フィルムなどによってその実装が行われてきました。しかし、“部位毎の最適なリブレット形状”の実装のためには何パターンもの金型を作る必要があることから、最適なリブレット設計の実装は実現していませんでした。そこで、ニコンはレーザーでリブレットを加工することで、これまで存在していた制約を解き放つ3つの自由度をリブレットの世界に持ち込みました。
- 1. 加工対象材料に対する自由度
- 2. 加工対象形状に対する自由度
- 3. リブレットデザインに対する自由度
自由度1:対象材料


多様な材料へのリブレット付与
前述のように従来のリブレットは樹脂フィルムを用いてきました。しかし、樹脂フィルムには「張り替えが可能」というメリットがある一方で、「耐熱性」「耐久性」「剥離」という3つの制約が存在していました。ニコンのレーザー加工では、従来の樹脂フィルムに加えて、樹脂材、金属材、コート・塗装材、などにもリブレットを直接付与することが可能となっています。これにより、これまでフィルムが溶けてしまうような高温環境下やフィルムが剥離してしまうような強い流れの中でも、リブレットを採用することが可能となりました。
自由度2:対象形状


3次元曲面へのリブレット加工イメージ
3次元曲面の形状にリブレットを付与できることも特徴の一つです。ニコンは直接3次元曲面上にリブレットを加工することが可能なので、フィルム貼り付け時の皺や曲面によるフィルム剥がれの心配もなくなります。これにより、解析によってデザインされた”最適なリブレット”を、より正確に製品に適用することが可能となっています。
自由度3:デザイン


滑らかな曲線を描くリブレット
リブレット活用の展望

リブレットの適用範囲は大きく広がっています。従来より適用検討がされてきた航空機やレースカー、風車に加え、ガスタービンやプロペラ機、ドローン、ポンプ、家電製品などに至るまで、その適用可能性は広がってきています。ニコンはそうした製品を扱う外部の企業様と共に、効果の事前予測からお客様製品での効果検証実験、量産加工まで一気通貫でのサービスを提供しています。